肩こりと五十肩

第223回市民医学講座

肩こりと五十肩
かかず整形外科 院長 嘉数 研二


本日のテーマは「肩こりと五十肩」ということですが、正確に言いますと、「肩こり」というのは病名ではなく、いろいろな病気の際に出てくる症状の一つでありまして、これに対して「五十肩」というのは立派な病名、疾患名ということですので、従いまして、「五十肩」や「頚椎症」などの病気になりますと、「肩こり」が生じてくるということなのでございます。それをご理解いただいた上でお話を進めて行きたいと思います。では、順序として「肩こり」についてお話をしまして、その後、その「肩こり」を生じるせしめる病気の一つあるで最も身近な[五十肩」について述べたいと思います。

A.肩こり


「肩こり」というのはその訴えは人様々であり漠然としていますが、いわゆる「首筋や肩、背中のあたりが、張る、重苦しい、圧迫される、鈍く痛い」などと感ずる症状と言えましょう。その原因としては多くの疾患が考えられますが、身近なものをプリントにあげてみました。

1.日常的なもの 姿勢不良 過労 精神的ストレス
2.整形外科的なもの 頚椎由来 五十肩 胸郭出口症候群 筋肉由来など
3.内科的なもの 高血圧 低血圧 肺疾患 心疾患 その他
4.その他

・精神的なもの ノイローゼ うつ病
・眼科的なもの 眼精疲労 眼鏡など
・耳鼻科なもの 中耳炎など
・婦人科なもの 更年期障害など
・歯科的なもの 虫歯・歯槽膿漏など

1)の日常的なものは、不自然な姿勢で長時間座っていたり、仕事をしても起こりますし、限界を越えた過度の労働や特殊な職業(キーパンチャー、タイピスト、あるいは長時間前かがみの仕事をする人、最近ではコンピューターを長時間操作する人など)でも多くみられます。これらはこうした悪い姿勢や繰り返しの動作によって筋肉の異常緊張が持続し血液の流れが悪くなり新陳代謝の滞りの結果「発痛物質」(ヒスタミン、セロトニン、ブラディキニン、K+等)生じ痛みが出ると考えられています。

2)の整形外科的なものですが実際はこれが一番多いものと思われます。特に中高年者に於いては頚椎由来、五十肩が多くを占めます。頚椎の骨とか軟骨、関節そしてその周囲の組織の変性によってその組織自身の由来による痛み、あるいはそれらが神経を圧迫障害することによって生じる痛みなどがあります。二次的に筋肉の血行障害や異常緊張を生じせしめ悪循環を生じます。疾患としては頚椎症、頚椎ヘルニア、後縦靭帯骨化症、頚髄腫瘍などがあり、症状によっては手術などの急を要するものも少なくありません。これらの頚椎由来の疾患の場合は頚髄神経に影響を及ぼすことが多く、肩こり、頚背部痛の他、上肢や手指の痛みやシビレなどの知覚障害や筋力低下などの運動障害が見られることが少なくありません。さらにひどくなると脊髄圧迫症状(ミエロパチー)や膀胱直腸障害も見られるようになり歩行障害も出てきます。従って早めに専門医に診てもらい、定期的なチェックを受けながら適切な治療を行うことが大切です。不運にも病気が進行する場合はその手術の時期を逃さないようにする事です。これに比べ、後ほど詳しくお話いたします「五十肩」は、日常不便を来たしはしますが余り心配するものではありません。

3)の内科的なものは常に念頭に入れて於かねばならないものが少なくありません。狭心症では胸部の痛みや左背部から肩そして上腕部の痛みが生じることもありますし、肋膜、肺自身の病気でも頚背部そして肩の痛みが生じることがあります。肝臓やすい臓などの腹部臓器の疾患でも同様の頚背部痛を来たすことがあります。以前から内科的な問題を指摘されている人はとくに鑑別診断としてこれらを考慮する必要があります。整形外科的に異常が指摘され治療をする場合でも、常にこの内科的な病気によるものを確認し否定した上で始めることになります。

4)のその他精神的なもの、眼科的なもの、耳鼻科的なもの、婦人科的なもの、歯科からくるものなどがありますが、これらについては今回詳細は述べませんが、普通は自分で見当がつくものもありますので専門医に診てもらうようにします。わからない場合はかかりつけの病医院の医師に相談いたしましょう。以上のようにいちがいに「肩こり」といってもいろいろの病気があることがお解りねがえたと思います。従いましてこの「肩こり」の治療はまずこうしたいろいろな病気をきちんと鑑別し判断した上で治療を行うことになります。医師は「肩こり」があるからといってすぐ対症的に電気をかけたり、マッサージを行ったり、牽引をしたりして痛みを除くことだけを考えているわけではないということなのです。「この患者さんは他に病気は無いだろうな。頚椎のあの部位が悪いため今の症状が来ているのだな。今はこうするのが一番良いだろう。そして少し様子みて何日後にもう一度チェックが必要だ。」など考えながら治療をしているわけです。こうした上で「肩こり」に対して次のような治療が選択されます。

保存療法、消炎鎮痛剤、筋弛緩剤等の投薬
理学療法、牽引療法、運動療法
注射(局所麻酔剤、筋弛緩剤、ステロイド等)
硬膜外ブロック等
手術(適応を充たした場合行う)
除去 除圧・摘出・固定

B.五十肩


これまで述べた「肩こり」を生じせしめる疾患の一つとして五十肩がありますが、これは「肩関節周囲炎」とも言われます。これはおおよそ次に示したように考えていいでしょう。「中年以降に、肩関節を構成している組織(腱板、肩峰下包、上腕二頭筋長頭腱、肩関節包等)においてその退行性変化から炎症さらに癒着を生じ、疼痛と肩関節の運動制限を来す可逆的な疾患」といえます。高岸によれば、標本を見ると40才を境に筋や腱には石灰化や空胞化などの変化が著名にみられるということです。この腱炎から肩峰下滑液炎を来たし発症するタイプは85%と大部分を占め、上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎由来は15%程度と少ないようです。「五十肩」はStageによる分類が大切で、その症状や治療法が少し異なってきます。

1)Freezing type (65%) 急性期
癒着(-) 痛みによる筋肉硬直による運動障害

2)Frozen type (35%) 慢性期
癒着(+) 肩峰下滑液包炎から滑液包の癒着

上腕二頭筋長頭筋腱腱鞘炎から腱鞘内癒着と滑液包の癒着
そして癒着性関節包炎を生じ筋硬直と相まって肩の拘縮を来す。

症状は両方とも肩関節の痛みと運動障害で、帯が結べない、髪が結えないなど日常動作にも不自由を来たしますが、1)のFreezing typeはpassiveには可動域は正常で関節造影でも異常所見は認めないのに対し、2)のFrozen typeは可動域は制限され、癒着による拘縮を認め、関節造影でも肩甲下筋滑液包の縮小を認めます。鑑別診断では腱板損傷があります。なかなか治らないときや外傷性の既往があるときはこの肩板損傷を疑い検査する必要もでてきます。

治療法

普通は保存的療法でよく、手術的な治療は考えなくてよいでしょう。Freezing typeは主として痛みに対する治療で、Frozen typeは拘縮にたいする治療が主となりますが、できるだけFrozen type にならない内に早期に治療することが大切です。早ければ早いほど良いのです。

1)肩は冷えないようにし、温めること。
2)痛みの来ない緩やかな挙上運動(自動、他動)
3)筋肉マッサージ、
4)電気療法(マイクロウエーブ、ssp療法、干渉波等)
5)投薬(消炎鎮痛剤、筋弛緩剤等)
6)注射(麻酔薬、ステロイド)

運動療法(原則は痛みを起こさせないこと強い運動はかえって悪化させる)

Codman体操---振り子運動(内外転、前後、回旋、時計の針運動)
自動抵抗性等尺運動--肩の周囲筋群の強化と循環改善

予後

高岸によれば430人の患者(平均52.7才)のうち2年後症状の残存したもの58名(28.2%)で髪が結えない帯が結べないなどのADLに支障あったもの10名(4.9%)ということです。

肩こり体操

1.ゆったりと椅子に腰掛けます。(立ってやってもいいです)
2.頚をゆっくり前後、斜め、左右に傾けます。
3.気持ちの良い方向はもう一度ゆっくり繰り返します。
4.左の肩に右手をもって行き、指先でポイントを圧迫しながら首筋を反対方向へ伸ばします。(気持ちの良いときは数回繰り返します)
5.右の肩に左手をもって行き、指先でポイントを圧迫しながら首筋を反対方向へ伸ばします。(気持ちの良いときは数回繰り返します)
6.肘を曲げ両肩を後方へ引き、肩胛骨を近寄せます。(同様に数回繰り返します。)
7.反対に肩胛骨を広げるように肩をすぼめます。
8.両肩を挙上させ頚を縮めるようにします。
9.両肩を力を抜き下方へおろします。
10.両肩を前方と後方へ交互にゆっくり廻します。肘を曲げて行います。
11.両肘をのばして腕を後方へ伸ばします。

関連記事

  1. 麻痺のリハビリテーション

  2. 陥入爪(かんにゅうそう)の治療

  3. 足関節捻挫

  4. 痛風について

  5. 正しい薬の飲み方・使い方--整形外科から

  6. 腰が痛い

PAGE TOP